前歯の冠がぐらぐらするという患者さんがお見えになりました。以前から定期検診で冠の下に虫歯があり冠のやり直しが必要だと判っていたのですが、患者さんの体調がすぐれない事もあり、そのままになっていました。ひさしぶりにお見えになって、指でそっと動かしてみると嫌な予感がします。歯の根の中程で折れているような感じがします。レントゲンを撮ってみるとやはり残念ながら根の半分ほどのところで垂直に折れていました。
比較的、冠に近い位置で折れている場合は冠の作り直しだけで治療を終えることができる場合もあります。ところが、根を支える骨より深い位置で折れていると複雑な処置が必要になってしまいます。
骨の位置より下でも折れている位置が比較的浅ければ、部分的な矯正装置を使って折れている部分が骨の外に出るまで根を引っ張り出す事が出来る場合もあります。また、いちど抜歯をして180度回転させ方向を変えて再植が出来る場合もあります。いずれにせよ、深い位置で折れていると保存が不可能になります。
折れた歯をそのまま放置していると折れたラインからばい菌が侵入して歯茎が腫れてきます。腫れると周囲の骨が溶けてしまい、その後の処置がだんだん難しくなってしまいます。本来は早く抜歯したほうが良い事もあるのですが、患者さんは「冠が取れただけ」と思われているので説明してもなかなか理解していただけない場合もあります。
この患者さんの場合はブリッジとインプラントと取り外しの義歯という3つの治療法について説明したところ、インプラントを選択されました。とりあえず、麻酔をして冠と折れた根っこの部分を取り除き、両隣の歯に矯正用の接着剤を使って仮歯を固定しました。
一週間後に時間が取れましたので、残りの歯の根を抜歯して同時にインプラントを植えました。幸い骨のダメージも少なかったので初期固定がしっかりと得られましたので、そのまま仮の土台を取り付けて仮歯を戻しました。翌日にチェックにおいでになりましたが、痛みはまったく無かったとおっしゃっていました。
従来の方法では、先に抜歯を行ない上顎だと6ヶ月ほど治癒を待って、骨の吸収量が多い場合は骨を造成する処置を行ない、また半年ほど待ってようやくインプラントの埋入という場合もありました。数回の外科処置が必要なだけではなく、インプラントを植えるまでの間に長い待ち時間も必要です。さらには抜歯した部位に即座にインプラントを植えた場合、骨の再生能力が高まっているので、インプラントと骨の結合が起こりやすいという利点もあります。また、表面をハイドロキシアパタイトでコーティングしたインプラントを使うことにより、抜歯窩(歯を抜いた後の骨のくぼみ)に骨が再生されやすくなり、最終的な骨の吸収量も少なくなります。
抜歯即時インプラントの場合は10-14週ほど待ってインプラントと骨がしっかりと結合するのを待って最終的な冠を作るだけです。抜歯即時インプラントは抜歯後に骨や周囲の組織が吸収する量をしっかりと把握してインプラントを植える位置、方向、深さなどを決めないといけないという難しさはありますが、きちんと計画して埋入すれば場合によっては1年近くも治療期間が短縮できる事もあります。
冠が入っている歯がなんだかグラグラするという場合は、折れている事もありますので、なるべく早めに受診してください。周囲の骨が溶けてしまってからではインプラントが不可能だったり、さらに複雑な処置が必要になる場合もあります。