歯科麻酔のアナフィラキシーショックについて調べていたら、内科開業医のお勉強日記様に非常に気になる記事がありました。
<歯科女児麻酔死>医師不起訴は不当 さいたま検察審査会虫歯治療中の4歳女児を死亡させたとして、業務上過失致死容疑で送検された埼玉県深谷市の男性歯科医が不起訴となったことについて、さいたま検察審査会が不起訴不当の議決をしていたことが分かった。
議決書(4日付)などによると、02年6月15日、深谷市の会社員、木部寿雄さん(40)の長女遙加ちゃんは、同市の歯科医院で治療中、局所麻酔により重篤なアレルギー症状「アナフィラキシーショック」を起こし、同夜に死亡した。県警は05年1月、歯科医師を書類送検したが、さいたま地検は同年7月、嫌疑不十分で不起訴とした。
議決はショック症状について「予見可能」とした。また、「現在の開業医の歯科医の(設備、技術)水準では、救命可能性に疑問が残る」とした地検の判断について「同種の事件で刑事責任が問えなくなる。開業医と他の病院に差があること自体が問題」と指摘した。【村上尊一】
(毎日新聞) - 10月19日13時46分更新
小児の治療でまだ一度も麻酔の注射をした事が無いという場合は、注射する前後に少し注意が必要です。本人やご家族に麻酔薬に対するアレルギーが無いかどうかの確認を行ないますが、注射中や注射後に泣き出したとしても何か異常があったのか、それとも痛かったのか、単に緊張しているのかが判りにくい場合もあります。
それでも、少し余分に注意を払えば、電動の注射器でゆっくりと少量ずつ麻酔薬を注射するとの、注射したあとに様子の変化がないか注意して観察するという、どの患者さんにも共通する術式で麻酔はできます。
実際、歯科の麻酔で重篤なアナフィラキシーショック状態になる事は確率的に非常に低いのです。ただ、重篤なアナフィラキシーショックを起こせば救命できる可能性はほとんどありません。それでも麻酔を行なうのは麻酔をして歯科治療を行なう事により得られる利益が歯科麻酔のリスクをはるかに上回るからです。
それではあらかじめ皮内テストやパッチテストでアレルギーの有無を確認すれば良いのでは?と言われるかもしれません。しかし、ショックは薬剤の量や濃度には依存しない事も多いので、パッチテスト自体でショックを誘発する可能性があります。また、パッチテストで陰性だからといって、ショックを起こさないという保証もありません。ですから、最近ではテストを行なう正当性への疑問すら表明されています。
ですから『ショック症状について「予見可能」とした』のであれば、さいたま検察審査会にはその根拠(少なくともきちんとした学会誌等に掲載された論文等)を示す必要があると思います。
法律の専門家の方はどうお考えなのかと思うのですが、元弁護士のつぶやき様でも
「同種の事件で刑事責任が問えなくなる。」という論理が不起訴不当の論理としてどうなのか、という疑問を感じますしとコメントされています。「開業医と他の病院に差があること自体が問題」という点も、過失犯論に対する理解不足を感じさせます。
刑事責任を問うことが目的化しているようです。
私は歯科医師になってから20年以上経ちますが、幸いに私が投与した薬剤でアナフィラキシーショックを起こした患者さんはありません。問診を行なわずに、以前にアレルギー反応を起こした薬剤を投与するのは問題外ですが、気をつけていても確率的にはアナフィラキシーショックを完全に防ぐ事はできません。また、アナフィラキシーショックを起こしてしまえば、通常の開業医レベルで救命することはほぼ不可能だと思います。
さいたま市の先生方、さいたま検察審査会のメンバーの方が治療においでになったら、「私は残念ながらアナフィラキシーショックを予見する能力がありません。予見する方法を教えて頂くか、さもなくば治療をお断りするか、麻酔無しで治療させていただくしかありません。」と、お願いするしかないみたいですね。

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