歯科用マイクロスコープ
最初は手術室に一台の顕微鏡を設置していたのですが、オペだけではなく支台形成や補綴物のチェック、根管治療などにも大活躍するようになって、2006年の改装を機会にもう一台購入しました。それまでは、勤務医の先生と私で顕微鏡下の処置が重なる事もあったので、ずいぶんと楽になりました。
最近では顕微鏡下で特殊な樹脂を詰めて一日で修復を終えるダイレクトコンポジットという方法も用いられるようになってきましたので、新しい顕微鏡は術野でレジンが固まらないような特殊なフィルタがついています。フィルタをかけると視野が黄色くなってフォグランプみたいです。
新しい顕微鏡は主に形成やダイレクトコンポジットに使うので、手術室の顕微鏡より軽量のタイプを選びました。視野を動かしながら使うには軽くて取り回しが良いので使いやすいです。それぞれ使い分けていきたいと思います。
顕微鏡酔い
歯科用の顕微鏡(マイクロスコープ)を使って細かい作業をしていると、乗り物酔いのような状態に陥って、胸がムカムカしたり、ひどい人は吐いてしまったりする事があります。俗に「顕微鏡酔い」状態です。もちろん、患者さんが気持ちが悪くなるのではなく、術者である我々が酔ってしまうのです。
幸い私は大学を卒業して大学院に入ってから、アメリカの大学に勤務している間までほぼ8年、ずっと骨の微細構造の研究をしていましたので、顕微鏡を7?8時間のぞき続けても全く平気です。また、PS2の3Dゲームで鍛えているのも顕微鏡酔いに強い理由ではないかと思っています。
ただし、顕微鏡が床に置いてある可動式のキャスターに固定してあると、アシスタントが近くを歩いただけで視野がプルプルと震えて、ちょっと酔いそうになる事があります。歯科用顕微鏡を買う前には、各社の顕微鏡を順番に借りて実際に使ってみました。もちろん、移動式でないとちょっと借りるわけにはいかないのですべてキャスター式のタイプでした。国産のメーカーで値段が安くてお買い得のように見えた顕微鏡は、本体の剛性が弱く一度揺れ始めるといつまでも視野がブルブル震えて使いものになりませんでした。構造設計で問題になったマンションみたいな顕微鏡です。結局、デザインはごついのですが、剛性が強くて視野の揺れが少ないGlobalの顕微鏡を買いました。それでも不安だったので、コンクリートの壁に直接取り付けてもらい、視野の揺れもなく快適に処置をしています。
(時々、顕微鏡のブームに頭をぶつけるととても痛いのだけが難点です。)
顕微鏡と食べ物
顕微鏡下で細かい作業をする大敵は手の震えです。緊張すればするほど、手が震えますので、メンタルなコントロールも重要になります。顕微鏡を使った歯周外科処置の研修を受けていたとき、講師の先生からカフェインを摂取すると細かく手が震えるので処置の前にお茶やコーヒを飲まないようにと教えていただきました。他にも風邪薬や咳止めにも細かい手の震えの原因になるものがありますので、処置の前には薬は飲まないようにしています。
もちろん、処置当日に重たい荷物を持ったりするのも手の震えの原因になります。私が朝からゴミを出しに行かないのは、手伝いたい気持ちは非常にあるのですが、職業的な制約なので泣く泣くやらないだけなのです。(そう言うくせに顕微鏡処置が無い日もゴミを出しに行かないという指摘もあります。)
顕微鏡手術用器具(ちょっとケチくさい話)
ピンセットや持針器などはあまり変わった形の器具を使うわけではないのですが、非常に繊細で精度の高い器具が必要になります。そのため、チタン製の器具を多く使いますし、一本ずつが熟練した職人さんの手作りです。その分、非常に高価となってしまい、マイクロサージェーリー用のピンセットは1本10万円近くします。さらに、このような精密なマイクロサージェーリー用のピンセットは誤って床に落としたらもう修理もできません。多くの場合は廃棄処分になります。アシスタントにはあまりケチくさい事は言いたくないのですが、買ったときには必ず、「これは1本10万円だからぜーったいに落とさないようにしてね。」と念をおします。手術の前にMayo tableの上に並んでいる器具をみながら、「フルセット100万円だぁ」なんて思うと手が震えそうになりますが、処置を始めてしまうとそっちに集中してあまり気にはしてません。
歯科用マイクロスコープ(顕微鏡)
歯科用マイクロスコープは、顕微鏡レベルで精密に歯を診査・診断および処置を行うためには必要不可欠の医療機器です。使いこなすためにはトレーニングが必要ですが、熟練すれば高倍率下で肉眼やルーペーを用いて観察していた時には想像も出来ないような精密さを持って術野を観察し処置を行う事が可能になります。歯科用マイクロスコープには歯周外科外科手術や冠の支台歯の形成、根管治療など幅広い用途があります。肉眼やルーペでの処置に比べ、治癒期間の短縮、さらに精密な適合、治療不可能であった根管の治療など様々な利点があります。
歯科用マイクロスコープの普及率
高倍率の顕微鏡の使用は現代の歯科医療のレベルを変え、歯科医師の仕事自体を変えようとしています。 現在、米国の大学院生教育においてEndodontic(根管治療)のカリキュラムでは、Surgical Operating Microscope(SOM : 外科手術用顕微鏡)のトレーニングが必修となっています。 しかし、たとえアメリカでも歯科用顕微鏡を導入している歯科医院は決して多くはありません。ましてや日本での普及率は1%に満たないとの調査もあります。アメリカで行われた調査では、顕微鏡を用いずに治療を行っている歯科医師の多くは顕微鏡の必要性を感じていないと答えているそうです。それは顕微鏡を用いずに治療を行っている歯科医師は自分の治療の結果を顕微鏡で観察する機会がほとんどないからではないでしょうか。実際、ルーペーを用いて概形を形成し、顕微鏡を用いて仕上げをすると、その精度の違いにびっくりする事があります。まるで、ノコギリで切った面をサンドペーパーで仕上げるような感覚です。一旦、歯科用顕微鏡を使い始めると、顕微鏡下での処置と通常の処置の間の大きな治療の質の差が本当に良く理解できるようになります。
当院で使用している歯科用マイクロスコープ
当院では米国Global社の歯科用顕微鏡を使用しています。Global社の歯科用顕微鏡は米国のEndodontist(根管治療専門医)の中で最も評価が高く、多くの米国の歯科医師が使っています。(実は私にGlobalの顕微鏡を勧めてくれた米国の根管治療専門医の受け売りです。)