2006年3月アーカイブ

 口腔ガンは早期に発見される率が少なく、現状では他の癌より治療成績があまり良くありません。早期に発見すれば治療の成功率が劇的に上がるだけではなく、術後のQOLの低下も防ぐ事ができます。しかしながら、前ガン病変と呼ばれる癌に進行する可能性のある病変も含めて、口の中によくある口内炎などの症状にまぎれて見過ごされている場合が多いのが現状です。

 そこで、近年、簡単で苦痛の無い細胞診を用いる事によって、ごく早期のガンを発見して治療する事が可能になりました。当院でも口腔癌の細胞診を行っておりますので、気になるしこりや潰瘍がある方は早めに受診下さい。

細胞診の流れ
1. 口腔内診査
soar.jpg 通常の定期検診の場合、歯や歯茎だけではなく舌や頬の粘膜などに異常が無いかを診査します。潰瘍や正常でない粘膜の盛り上がり、白や赤の病変を見つけた場合はデジタルカメラに記録し、カルテに状態を記載します。また、触診で硬結(しこり)がないかを確認したり問診や触診、レントゲンによる検査を行う場合もあります。

2.経過観察または治療
 口腔内によく見られる口内炎や咬傷などと鑑別が難しい場合は、塗り薬を処方したりレーザーを照射したりして治療を行う場合もあります。通常、10日前後で症状が無くなる場合は癌の可能性は低いと考えられます。
3.細胞診
 診査で悪性の可能性が高いと判断されたり、治療をしても治癒が遅い場合は細胞診を行う事があります。綿棒や細いブラシを使って病変部をこすり、表面の細胞を採取します。採取した細胞は即座にガラスのプレパラートに塗布し、細胞標本を作るために固定をします。綿棒や細いブラシでこするだけですので、麻酔の必要もありませんし、切開や切除を行う必要もありません。
4.標本の作成
 採取した細胞は検査ラボに送って癌細胞を判別するための特殊な染色を行います。
5.細胞診断
 準備が終わった標本は長崎大学歯学部歯科口腔外科に送付され、病理学会の認定により顕微鏡下で細胞診断が行われます。診断結果により疑われる病名や悪性度の所見が作成されます。
6.説明
 通常1週間程度で当院に報告書が送付されてきますので、その結果についてご説明をします。
7.経過観察
 悪性の病変ではない場合でも白板症や紅板症等の前ガン病変と診断された場合は定期検診を行いフォーローアップして行きます。

 検査の費用自体は保険の適応になりますので、検査自体の負担金は約1100円程です。

exostosis.jpg 下顎の小臼歯(糸切り歯の奥の歯)の舌側の骨の表面に現れる骨の隆起(盛り上がり)です。正常な部位との境い目がはっきりと判ります。半球状のものからやや大きなものまでありますが、多くの場合は両側に出来ます。一個の場合や数個できる場合もあります。

 口蓋隆起と同じように痛みや感覚の異常が現れる事もなくすこしづつ大きくなっていきますが、あまり大きくなると話したり食事をするのに邪魔になる場合もあります。

 骨の隆起ですから押さえてみると硬く、粘膜が薄いので痛む事もあります。食べ物などが当たって潰瘍などを作ったり炎症をおこしている事もあります。特に義歯や歯の詰め物の型を採るときにトレーの縁が当たって痛む事があります。

 すこしずつ大きくなっていきますので、気がついた時にはかなり大きくなっている事もあります。これも一応、「良性腫瘍」に分類されますが、通常はそのまま経過観察をします。あまり大きくなって、食事や会話の妨げになったり、義歯の制作の邪魔になる場合は外科的に取り除きます。発生の頻度は男性より女性に多く、中年を過ぎてから大きくなる事が多いようです。また、家族的に見られる事が多いと言われています。

 表面に顆粒状の凹凸の肉芽や潰瘍がある場合、急激に大きくなった場合それに片方だけに大きな隆起がある場合は、扁平上皮癌や小唾液腺癌が疑われる事もありますので、気になるときは必ず受診してください。

palatal.jpg 上顎の真ん中に、現れる骨の隆起(盛り上がり)です。正常な部位との境い目がはっきりと判ります。ラグビーボールのような形(紡錘形)をしている事が多いのですが、結節状や扁平状の場合もあります。
 痛みや感覚の異常が現れる事もなくすこしづつ大きくなっていきますが、あまり大きくなると話したり食事をするのに支障が出る場合もあります。

 骨の隆起ですから押さえてみると硬く、粘膜が薄いので痛む事もあります。食べ物などが当たって潰瘍などを作ったり炎症をおこしている事もあります。

 すこしずつ大きくなっていきますので、気がついた時にはかなり大きくなっている事もあります。一応、「良性腫瘍」に分類されますが、通常はそのまま経過観察をします。あまり大きくなって、食事や会話の妨げになったり、義歯の制作の邪魔になる場合は外科的に取り除きます。

 表面に顆粒状の凹凸の肉芽や潰瘍がある場合や急激に大きくなった場合、扁平上皮癌や小唾液腺癌が疑われる事もありますので、気になるときは必ず受診してください。

 口腔ガンや前ガン病変を早期に発見するためには定期検査が重要です。患者さん本人が気がつかない非常に小さな早期のしかし「危険」な病変があるかもしれません。

 患者さんが通常の定期検診にお見えになった時、歯や歯周組織だけではなく、お口の中全体を慎重に診査するようにしています。研究報告によれば歯科医師が診査を行うと10%ほどの患者さんに白色や赤色のスポットや小さな炎症を見つける事があるそうです。ほとんどは心配がいらない種類のものですが、時として悪性や前ガン病変の場合もあります。もちろん経験を積んだ歯科医師が診査すればその多くは簡単に見分ける事が出来ますので、カルテに色や形などを記載をしてデジタル写真を撮影し経過観察をする場合も多いです。

 しかし、炎症やその他の病変の中には視診や触診だけでは悪性のものと鑑別が難しいものもあります。通常の良くありがちな炎症やのように見える場合は治療や投薬を行って経過観察をする場合もあります。いずれの場合も患者さんには今の状態についてはきちんと説明を行っていますので、かならずお願いした期間の後に診せてください。デジタル写真が残してありますので、次に来院された時にもう一度写真を撮って比較する事によって、病変の変化を容易に把握できます。

 時として無害のように見えながら原因がはっきり特定できない病変を見つける事があります。これが悪性のものではない事を確かめるために細胞診断を行う事もあります。これは病変部の細胞を綿棒で拭き取ってガラスのプレパラートの上に塗り付け、固定した上で検査機関に送って検査をしてもらいます。検査結果は1週間ほどで判ります。綿棒で拭うだけですので、ほとんど痛みはありませんが、悪性疾患の早期発見や前ガン病変の発見も可能です。

 もし、非常に悪性疾患の疑いが強い病変を見つけた場合、組織診が必要な場合があります。麻酔をした上で疑いのある組織の一部をメスで切除し、組織切片を作って診断を行います。また、大学病院の口腔外科などに紹介して診断をお願いする場合もあります。

 口腔ガンはそれほど頻度が高い疾患ではありませんが、早期に発見しないと治癒する率が低くなるので、なにか異常を見つけたらともかく早めに診せてください。

 ADA(American Dental Association)(アメリカ歯科医師会)によると口腔ガンと診断された患者さんで5年以上生存する方は半数に過ぎません。しかし、最新の診断技術を用いれば、以前よりずっと早期に口腔ガンの診断が可能になり、治せるチャンスがずっと多くなります。

口腔ガンは
  • 気づかないうちに口の中の小さな白や赤い点や腫れとして始まります
  • 舌、唇、歯茎、頬、口蓋(上顎の天井の部分)など、どこにでも出来る可能性があります
  • 他の兆候としては下記のようなものがあります。   
         
    • 容易に出血したり治らない腫れ    
    • 舌や粘膜の上の色の変化(白・赤・黒に見える場合があります)    
    • しこり、厚くなったざらざらの点、かさぶたや潰瘍    
    • 口の中の痛みやしびれ感    
    • 物が噛みずらい、飲み込みにくい、話しずらい、顎や舌が動かしにくい    
    • 噛み合わせが変わった    
    • 急に義歯が合わなくなった   
  • 喫煙は大きなリスクファクターです
  • 飲酒を伴う喫煙はリスクが非常に大きくなります
  • 過度に日光にあたると唇のガンのリスクを増やします
  • しかしながら、口腔ガンの患者さんのうち25%以上の人は非喫煙者で他のリスクファクターとも無縁です。
  • 口腔癌の好発年齢も、他領域の癌とほぼ同様の50?70歳代ですが、若い人にも発病します。
  • 性別による発現頻度は、わずかに男性に多く発症しています。飲酒・喫煙との関連が指摘されています。
  • 研究によると果物や野菜をたくさん摂るとガンの発生を予防できる可能性があります。   


 口の中にも癌が出来ることをご存知でしょうか。口の中にできる癌(ガン)口腔ガンはすべてのガンの4%ほどを占めています。日本全国では毎年1万5千人の人が発病し7千人程の人が死亡していると推定されています。しかし、一般の方のおよそ30%はお口の中にガンが出来る事をご存知ないという調査もあります。(長崎大学歯学部の調査による)日本人にもっとも多い胃がんは潜在的患者も含めると年間25万人が発症し5万人の方が亡くなっていますので、一般の方でご存知ない方がいらっしゃるのも無理は無いかもしれません。

 ADA(American Dental Association)によると口腔ガンと診断された患者さんの5年生存率は約50%です。その大きな理由は口腔ガンの7割以上が進行ガンの状態で発見される事にあります。しかし、口腔癌は、いわゆる「前ガン病変」と言われる時期が何年も続く場合もあり、比較的長い時間を経て発症する病気です。白板症、紅板症、扁平苔癬などの前ガン病変の状態で早期発見し適切に治療すれば口腔ガンの発生を防ぐ事ができると期待されます。

 また、他のガンに比べると口腔がんの治癒率は比較的良好ですが、術後の咀嚼・嚥下・発音などの機能に大きな影響を及ぼす場合があります。

癌研究会附属病院頭頚科における舌がんの各病期別の5年生存率
1期:(腫瘍の最大径2cm以下、リンパ節、遠隔転移ともに無し)
  生存率約80%
2期:(腫瘍の最大径2-4cm、リンパ節、遠隔転移ともに無し)
  生存率約70%
3期:(腫瘍の最大径4cm以上、リンパ節、遠隔転移ともに無し)
  生存率約60%
4期:(隣接組織への浸潤、リンパ節または遠隔転移)
  生存率薬30%

 熊本市歯科医師会で長崎大学歯学部顎口腔機能再建学講座の井口次夫教授と関根浄治講師をお招きして口腔癌の細胞診についてのお話をしていただきました。「舌がん」、「悪性黒色腫」、「歯肉がん」などは発生頻度はそれほど高くはないのですが、ひとたび発症すると患者さんのQOLを著しく低下させます。なにしろ、発音・咀嚼・嚥下を行う顎口腔機能の多くを失ってしまうだけでなく、審美的にも大きな問題が残ります。

 井口先生と関根先生が開発された細胞診のシステムは口腔癌を早期発見・早期治療するために、かかりつけの歯科医院で細胞診を行うというものです。

 歯科医院で行う細胞診にはこんなにメリットがあります。

1. 簡単・痛みがない
 癌の疑いがある組織を切り取って調べる組織診断と比べ、綿棒で表面の組織を採取するだけなので痛みがほとんどありません。
2. 早期発見が可能
 癌だけでなく前癌病変を発見する事も可能であり、早期発見・早期治療が可能になります。
3. 大学病院を受診する必要がない
 かかりつけの歯科医院で診断可能ですので、大学病院まで行く必要がありません。
 当院でも年に数例は口腔癌が疑われる患者さんを診る事があります。従来は大学病院へご紹介していたのですが、今後は細胞診のシステムを導入する事によって、簡単で正確に診断が可能になります。

 大学院修了以来、井口先生とは久しぶりにお会いできてうれしかったです。
 20年以上経った今でも覚えているのですが、井口先生から臨床実習の後の口頭試問で「歯髄炎を放置するとどうなるか」という問題を出されました。「根尖膿瘍を作ります」と答えたら、「で、次は?」と質問され、顎骨骨髄炎、口腔底蜂窩織炎とどんどん進んでいっても「で、次は?」と許してもらえません。最後に「縦隔に炎症が波及して縦隔炎を起こすと心臓が止まって死亡します。」と答えて合格させていただきました。

 大学での講義は受けているときはその重要性があまり理解できませんが、いざ臨床の場に出てみると本当に井口先生の講義の一言一言が重要であった事が良くわかりました。

 臨床ケースの診断セミナーの世話人をやっております。連休の初日ですが
複雑なケースの診査・診断・治療計画の立案に役立つセミナーだと思います、どうぞご参加ください。

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ケースディスカッションセミナー in 熊本(快適な臨床をめざして)

講師
 木原敏裕 先生
 奈良県開業・SJCDインターナショナル常任理事・大阪SJCD顧問
 大阪SJCDレギュラーコース ディレクター・SDMC ディレクター
 CSTP プロデューサー

日時
 2006年4月29日(土) 10:00AM ? 6:00PM
会場
 熊本県歯科医師会館 3Fホール
定員
 100名(先着順)
協賛
  (株)白鵬 ・白水貿易(株)

プログラム
○SDMC卒業生ケースプレゼンテーションと木原先生による各ケースへのコメント
○細川孔先生によるケースプレゼンテーション
○木原先生によるケースプレゼンテーションと総括

参加費
  歯科医師¥21,000 歯科技工士¥8,000 歯科衛生士¥5,000
 SDMC卒業生 ?15,000

懇親会
 セミナー終了後 7:00PMより日航ホテルにて懇親会を予定しております。
(会費?10,000)

お申し込み方法
 お名前・所属・資格・連絡先・懇親会参加/不参加をご記入の上、
 FAXまたはe-mailにてお申し込みください。

お振込方法
 銀行振込にて受講料をご入金ください。振込手数料はご負担ください。
 ご入金の確認をもって申し込み受付といたします。
 振込確認書を以て領収書に代えさせていただきます。

お振込先
 肥後銀行 三郎支店(店番号169) 普通預金口座  口座番号 476439
 SDMC Reunion(エスディエムシーリユニオン)幹事 前田英俊(マエダヒデトシ)  
お申し込み先
 前田歯科医院内「ケースディスカッションセミナーin熊本」事務局
 熊本市帯山9丁目4-6 TEL : 096-382-8822 Fax : 096-382-8832

お願い
 参加申し込み多数の場合は先着順となりますのでお早めにお申し込みください。
 事前振込の方のみ昼食をご用意いたします。
 当日申し込みの方は昼食がご用意できません。
 受講料および懇親会費は4月21日(金)迄にお振込をお願い致します。
 お振込後のご返金は致しかねますのでご了承ください。

 抜歯後の血が止まりにくい事があります。主にワルファリンを服用中の方に多いのですが、まれには特に原因が判らずに止血が遅い方もあります。

 エーザイのwarfarinの適正使用情報によると、
「予定手術では手術の4?5日前よりwarfarinの投与量を若干減量し、凝固能の抑制を一般に治療域の下限近くまで緩和(INRで、2.0?2.5、トロンボテスト(TT)では約12?17%)して行う。」とあります。

 問診でワルファリンやバイアスピリンを服用中の方は内科の主治医の先生にお伺いして、休薬または減薬をして抜歯します。僧帽弁狭窄症や機械人工弁置換例ではINRで3程度まで下げているとの事ですので、そのままでは抜歯は難しいです。もちろん、緊急性の無い抜歯の場合は全身状態の回復を待つ場合もあります。

 頻度の多い心房細動例などでは最初からINRを2?2.5程度にコントロールされている場合が多いので休薬の必要が無い場合も多いのかもしれません。

 今日、抜歯した患者さんは内科の先生のご指示で3日間休薬してあったのですが、炎症が強くやや止血が長引きました。こんな時は、

1. 肉芽組織を完全に除去する
2. 圧迫止血
3. 縫合
4. シーネの作成

の順番で処置を行うと4のシーネまで行かずにあまり問題なく止血できます。今日はミラーの鋭匙でしっかりと掻爬して、すこし歯肉弁を剥離してしっかり縫合して、5分ぐらいガーゼをあてて抑えていたら止まっていました。

 もし、帰宅してから出血があるようだったら、薬局で滅菌ガーゼを買って15分ぐらいしっかり噛んでいれば出血が止まると思います。口の中に血が溜まると気持ちが悪いですが、あまり頻繁にうがいをすると却って出血が止まりにくくなりますので、血は吐き出すだけにしたほうが良いと思います。あまり、たくさん出血するようでしたら、主治医の先生に連絡したほうが良いと思います。

 スタッフのお誕生祝いでシャワー通りのアンジェロへイタリアンを食べに行きました。ワインといっしょに美味しい料理を食べて、お腹いっぱいになりました。特に、シェフ自らブレゼして下さった牡蠣のフローレンス風グラタンは大好評でした。
DSC01838.jpg写真のタイミングが悪くて炎が撮れなかったのが残念です。

 過換気症候群ってご存知ですか。

 治療中に、なぜだかだんだん呼吸が苦しくなり、しだいにこのまま息が詰まって死ぬのではないかと不安がつのり、手足の指や口の辺りがしびれた感覚に襲われる患者さんがいらっしゃいます。他の偶発症との鑑別は必要なのですが、過換気症候群(過呼吸)の場合が多いようです。

 この原因は不安感などによって、呼吸をコントロールする脳の呼吸中枢が過剰に刺激され、呼吸が激しくなるからだと考えられています。呼吸が激しくなると、血液中の二酸化炭素分圧が下がり、酸素分圧が上がりますので血液がアルカローシスを起こして、しびれ等の症状が出ます。さらには息苦しさから、窒息するのではという恐怖心がつのり、さらに呼吸が激しくなって苦しくなります。悪循環ですね。

 過換気症候群の主な症状をまとめると、
1. 呼吸が荒くなる(胸式呼吸でハアハア息をします。御本人は気づかない場合もあります。)
2. 息苦しい(窒息しそうな感じがすると言われる場合もあります。空気飢餓感とも呼ばれます。)
3. 口の周りのしびれ感
4. 手足の先のしびれ感(テタニー症状と呼ばれます。血液のアルカローシスが原因です。)
5. 意識が混濁する(混濁しないまでもぼーっとする事があります)
等ですが、個人差があります。

過換気症候群であると確実に診断できるなら、発作を起こした患者さんを放置しておいても死ぬ事はありませんし、何か後遺症が残る事もありません。まず、落ち着きましょう。(患者さんだけだなく、術者もです。)

 誘因としては心因性のパニックがあるのですが、恐怖心やストレスが引き金になることもあります。ですから、ただでさえドキドキする歯科治療が引き金となって、過換気症候群を起こす方があるのです。いわゆる、パニック障害患者の患者さんは血液中の二酸化炭素濃度を監視している呼吸中枢が過度に敏感なため、少し二酸化炭素分圧が増えただけでも「生命に関わる一大事」と認識して(無意識の内ですが)パニックになるとする説もあります。

 ペーパーバック呼吸法(paper bag rebreathing)は一般的に良く知られている過換気症候群の対処法です。紙袋で口と鼻を覆って呼吸する事により、呼気中の二酸化炭素が袋に溜まり、それを呼吸することによって二酸化炭素分圧が上がって発作がおさまると言われています。一見、理にかなっているようですが、最近ではあまり用いられません。

 UCSFのDr.Callahamの有名な論文があります。
 Hypoxic hazards of traditional paper bag rebreathing in hyperventilating patients.
Ann Emerg Med. 1989 Jun;18(6):622-8.
(過換気症候群の患者さんのペーパーバック呼吸法による低酸素症の危険)

 低酸素状態や虚血性心不全の患者さんに誤ってペーパーバック呼吸法を使用したために死亡した3例の事例が報告されています。そこでペーパーバック呼吸法の影響を調べるために20人の健康な被験者で実験を行いました。被験者は意図的に過呼吸状態を維持するように指示されました。この時のETCO2は平均21.6(SD3.2)mmHgでした。つぎに、過呼吸を維持したまま紙袋(クラフト#4)を当てて呼吸をし、呼気中の酸素分圧と二酸化炭素分圧(ETCO2)を計測しました。ETCO2が50mmHgに達した被験者は数名で、多くは40mmHgにも達しませんでした。一方、酸素分圧は平均で26mmHg低下しました。うち7人は3分後に26mmHg、4人は34mmHg、1人は42mmHgの酸素分圧の低下がみられました。

 ETCO2の正常値は35-45mmHgぐらいですから、30秒後にはETCO2はほとんど正常値にもどり安定しますが、酸素分圧は落ち続けます。このままの状態を無理に維持させれば今度は低酸素症で気を失うかもしれません。さらにオリジナルの方法で使うのは紙袋です。密着性が良いビニール袋ではさらに短時間で酸素分圧が低下する事が予想されます。
 また、「息苦しさ」は本当の低換気でも起こりますので、パルスオキシメーターで酸素飽和度を計測する事が絶対的に必要です。酸素飽和度のモニターを行わずにペーパーバック再呼吸を行ったり、100%酸素を投与するのは、、、無謀です。繰り返しますが、特にビニール袋で数分以上再呼吸するのは危険な場合があります。

 処置中に過呼吸が疑われる場合は酸素飽和度を計測して正常範囲にある事を確認します。次に、私かアシスタントが「ゆっくりと息を吸って・吐いて・吸って・吐いて」と声に出してリズムを取って呼吸してもらいます。場合によっては「吸って・止めて・はい吐いて」というリズムで呼吸をしてもらう場合もあります。
 それでも治まらない場合は、笑気鎮静用のマスクに予備の管を繋いでそれをあてて呼吸してもらう事もあります。管の一方の端にはマスクを繋ぎますが、反対側はどこにも繋ぎません。管の部分が死腔(空気が入れ替わらない部分)になるので、換気量をコントロールできます。ジアゼパムを静注すれば不安をコントロールしやすいのですが、注射針を見るとさらに興奮する方もいるので、経口投与できるジアゼパムの錠剤を使う事もあります。

 もちろん、パニック障害などで心療内科を受診中の患者さんは心療内科の主治医の先生と相談して、治療の前後だけ抗うつ剤や抗不安薬を処方または増量して貰います。これだけでも充分に効果があります。また、パニック障害ではなくても不安が強い患者さんにはジアゼパムを予め内服していただく事もありますし、モニターして笑気を併用する場合もあります。

 注意が必要なのは、肺気腫、肺炎、気胸、サリチル酸塩(アスピリン)の過量摂取、糖尿病ケートーシス、敗血症、尿毒症、心筋梗塞、脳血管障害などでも過換気症候群と同じような症状を起こす事もあるので、鑑別診断は必要です。

 余談ですが、マイケル・クライトン(ドラマERの原作者)が書いた小説「アンドロメダ病原体( The Andoromeda Strain)」を思い出します。地球外から採取された謎の病原体に汚染され全滅した筈の町でただ2人生き残ったはアル中の老人と泣き止まない赤ん坊。糖尿病ケトーシスとアスピリン中毒による代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスによる血液のpHのズレが病原体の活動を妨げたというオチだったと記憶しています。マイケル・クライトンはハーバードの医学部にいたので、この辺には詳しいかったのだと思います。

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